旧白夜桜花 第一話
pixivで上げていた旧の白夜桜花です。※完結せずに終わってます。ご注意ください。
魔力の瞳をもつ少年
獣歴 200年・・・
それはまだ、獣の民の世界ができてまだ数百年しかたっていない、法律もない無法地の世界。
異界してきた獣の民は村を作り、その村を発展し今では『国』となっている。
法律というものがないこの世界では、まさに空前の戦場と化していた。
そう・・・かつての住んでいた人間界と同じように。
※※※
「おい・・・」
「スー・・・。」
「おい・・・起きろ咲呂(さくろ)。」
「・・・あ、白月・・・。」
「着いたぞ。」
そういって彼はほほ笑む。
そうっと馬車からおりるとそこには大きな西洋風のお城があった。
辺りは真っ暗で大きな満月がお城を輝かせており、遠くにはぽつぽつと城下町の明かりが見える。
「ずいぶんと遠かったね。レオという国は。」
「そりゃそうだろう・・・。なにせ日ノ本から離れてるんだし。」
「そっか・・・で、今回は確か舞踏会の警備だっけ?なんでわざわざ私と白月を呼び出した意味がわかんないんだけど。」
「・・・たぶん。俺たちが戦で活躍していることを聞いたんだろう。」
白月がため息をつく。
まあ・・・主様の命令には逆らえないから文句言っててもしょうがないけど。
私はそばに置いてあった愛刀・「桜花」をとると、馬車を飛び下りた。
桃色の陣羽織が舞い上がる。
「おいおい・・・女の子なんだから丁寧に降りろよ・・・。」
「うるさいわね・・・そこまでこだわっている暇などないのよ。」
「はいはい・・・。」
このおてんばさんめ、と言いたそうな顔をして私の後を白月が付いてくる。
この後、思いもよらない強敵に遭遇することをこの時私たちはまだ知らなかった。
【白夜桜花~魔力の瞳をもつ少年~】
宮殿の中では盛大なパーティが開かれていた。
見たことのない各国の料理が並び、光沢のあるドレスを身にまとった人々は宮殿の真ん中にて踊っている。
そんな様子を私はいいなとうらやましがりながらも、一人ひとりを監視する。
「咲呂ちゃん。これお願いね。」
「あ、はい。わかりました。」
緑の髪をした、兎の獣人のメイドにいくつかのお皿を持たされた。
それを私は受け取り、中へと進んでいった。
「うぅ・・・歩きづらいなこの服。」
普段はひざ上までの着物に鎧と陣羽織をきている私だが、今黒いメイド服を着ており、一応赤い眼鏡を付けている。(伊達メガネ)
今回はあくまで警備員としてきているが、私たちが来ている途中に見知らぬ誰かから脅迫状が届いたらしい。
たださえ、国々で睨みあっているというのにこの国では恐ろしいことに、各国のお偉いさんを集めて舞踏会を開いたのだ。
表向きでは楽しそうだが、絶対裏で仕掛けてくる国もないとは言えないのでこうして変装して監視しているわけだが・・・。
「メイドの仕事をしながら監視なんて・・・。めんどくさいわね。」
ジタバタしながら監視などできるわけがないのだった。
ちなみに白月は反対側の出入り口にて同じく変装。いわゆる召使風の衣装となっている。
緑と黄色のチェックのネクタイに、紺のコートといった衣装だが、くやしいことにかなり似合っている。
ただえさえ、美男子な彼だからどんなダサい服でもカッコよく着こなせることはわかっていた。だが・・・。
「ちやほやされてイラつく・・・!」
つい舌打ちをしてしまったのだった。
・・・・その頃とある部屋にて。
「・・・いいか。お前ら。今回リオン様がこの舞踏会にいらっしゃったのは、あの敵国の軍師・リーフ殿を暗殺させるためだ。」
真っ暗な部屋に大きな男一人と数人の黒い衣装の兵隊、そして・・・。右目を布で隠している黒髪の猫耳の少年。
彼らはウォー隊といい、クライシスの看板隊ともいえる者たち。かつてクライシスと敵対した国の皇帝関係者を暗殺してきた、スペシャリストの暗殺軍団である。
その中にいるあの黒髪の少年もその一人。
真っ暗だというのに妙に輝く翡翠色をしたその左目は隊長へと向けられている。
それに気付いたのか隊長はニヤッとにやけると、地に響くような声で言った。
「今回も期待しているぞ・・・ライ。」
「・・・仰せのままに。」
彼はそういうとすたすたと部屋を出て行ったのだった。
※※※
遠くの教会の鐘が12回なる頃、ここレオの王宮で開かれているパーティはクライマックスを迎えていた。
盛大クラシックと共にレオの皇太子がウイエの姫と踊っている。
その周りには各国の人々が楽しく観覧している。
「ウイエの御姫様きれいだな・・・。」
桃色の長い髪を後ろにまとめ、純白のドレスに身をつつむ彼女はまるで撫子のように輝いて見えた。
そんなうっとりした私の様子に気づいたのか、ある御仁が近づいてくる。
「君もああいうのに憧れてるのかい?」
そう尋ねられれ、最初はびっくりしたがはいと答える。
「そうか。実は僕も憧れているんだ。そういうのに。・・・少し話をしないかい?」
エメラルドグリーンの髪をした、狐の御仁は苦笑をしながら私の横に立った。
少しだけならと私はいい、彼の話を聞いた。
彼はリーフというオリヴィエの軍師だそうだ。
確かオリヴィエは今大帝国であるクライシスと戦っているはず。
「クライシスって・・・確か、暗殺のスペシャリストがいらっしゃる場所ですね。」
「そうだね。クライシスと戦った国の上の人たちは皆彼らによって暗殺されたと聞いたよ。」
「・・・怖くないんですか?もしかしてリーフ殿を狙っているかもしれないのですよ?」
「確かに怖いね。実際にこの舞踏会に行くと言った時、皆から止められたよ。・・・けどね?僕は会いたい人のためなら命を賭けてでも行く主義なんだ。そう・・・たとえ彼女が彼に取られたとしても。」
「・・・彼女?」
悲しそうなリーフ殿の視線の向こうには蒼い色のきれいな女性だった。その隣には黄色の髪をしたあのクライシスの皇太子・リオン殿。
彼の強引な扱いに彼女はいやいやながらも付き合っているようだ。
「彼女は・・・あの御仁と仲良くいらしてないみたいですね。」
「まあね・・・。なにせ彼女はリオン殿が彼女の国を滅ぼしてまで手に入れた姫だからね。」
「っ!?」
リーフ殿の言葉に唖然とした。いくらこの世界が法律のない世界だとしても・・・彼女の気持ちを考えずに、ましてや彼女の故郷を壊してしまうなど腹立たしくてならなかった。
「・・・ひどいですね。」
「うん・・・だから僕はどうしてもあの国に勝たなきゃいけないんだ。たとえ僕が犠牲になっても「それはだめです!」・・・咲呂殿?」
「リーフ殿が死んだら元も子もないじゃないですか。あなたがそう決めたのだったら彼女を助けだして・・・彼女を幸せにするまで生きなきゃだめですよ。」
つい感情的になって少し怒鳴りながら言う。
しばらくポカーンとしていた彼だが、クスッと笑うとそうだねといった。
「ありがとう・・・咲呂殿。」
「いいえ。私こそ・・・話せてよかったです。」
「・・・何男と話してんだあいつ・・・。」
その頃白月は遠くから咲呂とリーフの様子をイライラしながらうかがっていた。
「では・・・またいつか会いましょう。神聖なる戦士様。」
「はい・・・ん?神聖なる戦士?」
リーフの言葉の最後が気になり、頭をかしげる。
すると突然明かりが消え真っ暗になる。
いきなりのことに国々の人々がパニックになる。
「・・・なんか嫌な予感がする。」
私はそう思うと、バッとメイド服を脱ぐ。
そこにはいつも通りの陣羽織と愛刀・桜花。
ダッと駆けだし、先ほど別れたリーフ殿を探す。
なぜ彼を思い出したのかは分からないけどとにかく彼を狙っているやつらがいることは確かだ。
「あぁもうっ!どこだっつーの!」
イライラしながら辺りを探す。
実は暗闇の中でもある程度は普通に行動することができる。
ただ、彼と同じような服装の人が多すぎて特定することができない。
人離れともいえるその秒速の駆け足で、辺りを走っているとふと彼が見えたような気がした。
「(いた!)」
そう思って向かうと、それと同じく誰かが彼に向かっている。
黒い髪の私と同じ猫の獣人・・・手には鋭いナイフ。
それに彼は気付いていない。
ヤバい!
そう思って私が刀を抜いたその時。
ガキャン!
「!?」
「くうぅ・・・。」
ナイフはリーフ殿の手前で止まった。
目の前にいたのは召使姿の白月だった。
幸いにも白月の刀によってナイフは止められたようだ。
「白月っ!」
「・・・おせえぞ咲呂。」
ナイフと一緒に黒髪の少年をはじき返すと、ふう・・・とため息を付きながら手を振るう。
「リーフ殿!お怪我は!?」
「ああ。大丈夫だ。ありがとう。」
「他の輩もいるかもしれねえ。咲呂。リーフ殿を連れて逃げろ。」
「・・・うん。」
さあこちらにとリーフ殿を引っ張って行く。
その場に残されたのは白月と黒髪の少年のみで、後の人たちはみな混乱の中逃げて行った。
真っ暗な宮殿に満月の光が降り注ぐ。
「あいにくにもこちらも仕事なんだわ。だから悪いが・・・ここで倒させてもらうぜ。」
ギラリと光る白月の瞳をうかがいながら、少年はゆっくりと立つ。そしてどこからか出したがわからないが数本のナイフを取り出す。
「初めて見た・・・白銀の狼族は。噂通り美男女なんだな。だが・・・容赦しない。」
そう言って彼は白月に向かってナイフを刺しにかかってきた。
※※※
「ここだと当分大丈夫だと思います。」
「そうだね。」
お城の端の灯台の頂上に着いた。
付いた途端リーフ殿はばったりと膝を落とす。
「すいません・・・長い距離走らせちゃって。」
「いや。大丈夫だ。・・・にしても彼は大丈夫だろうか?」
「白月ですか?あいつなら大丈夫です。・・・なにせ白銀の皇子ですから。」
「白銀の皇子?」
白銀の皇子とはこの世界で伝説となっている黒金の皇子の対となる者だ。
黒金の皇子は魔力が豊富で、たった一日で国を一個全滅させたこともあるぐらい。
それに対し、白銀の皇子は魔力はまあまあだがその代わり剣術がとてもすごいということ。
つまり武力と魔力というわけだ。
「すごいね。てっきりおとぎ話だと思ったよ。」
「私もそう思ってたんですけどね、最初は・・・ただ昔小さい頃とある国に攫われた時助けに来てくれた時は本当に皇子様のように感じましたよ。」
「ふぅん・・・ということは君は彼の事が好きなんだね?」
「えぇ!?どうやったらそういう話に!?」
ぼんと沸騰したかのように顔に熱が上がる。
爆弾発言を平気で落とす人だなこの人は!
「あはは。ごめんごめん。・・・ただ、ひとつ気になることがあってね。」
「・・・・?」
さっきとは変わり、急に真面目になったので私はひとつ深呼吸をすると彼に耳を傾ける。
「その・・・白月殿と対峙していた彼。他の奴らとはちがってものすごいパワーを感じた。気のせいだといいんだが。」
「・・・・・確かにそうですね。」
あの、馬鹿力な白月と互角だったのは少し驚いた。
そして彼から発する雰囲気が半端なく氷のように冷たく、あるいは灼熱のように熱く感じた。
あれはなんだろうか・・・。
そう思ったその時だった。
いきなり爆風と共に扉が飛び散る。
遠くにいた私たちを爆風は吹き飛ばし、壁に叩きつけられる。
その衝撃でリーフ殿は気を失った。
「・・・っ誰だ。」
扉の方向を見ると、そこには白月と対峙していたはずの少年だった。
所々、怪我をしているがさっきとは違って威圧感を覚えた。
「な・・・その眼・・・。」
「ん?この眼か?・・・まあ驚くことも仕方ない。」
先ほど隠れていたはずの右目は見えており、その瞳はまるでマグマのような赤い瞳だった。
「・・・よくあいつと戦って無事でいられたね。普通だったら死んでたよ。」
「ああ。あいつか。確かに他の奴らと比べて強かった。」
この傷だらけの体を見てたらそりゃだれでも、白月が手ごわいとわかるが・・・。
ただこいつ・・・傷が治っている。
服の裂け目から見えるはずの切り傷がどこたりもないのだ。
さっき言っていたリーフ殿の嫌な予感というのはまさにこれかもしれない。
「もしかしてあなた・・・黒金の皇子でしょ。」
そう呟くと彼はにやっと笑う。そしてまたたく間に体中に激痛が走る。
「正解だ。よくわかったな。」
ばったりと倒れた私の目の前に彼は呟く。
「残念だがこの御仁の命はもらいうける。」
「あ・・・だ、だめ・・・彼は・・・」
ぼやける視界の中私はひたすらリーフ殿の名前を呼び続けたのだった。
※※※
――獣人界 日ノ本 葉剣神社――
「・・・?」
神社の屋敷にいた私はふと何かを感じた。
外からはざわざわと木々が揺れ始めた。
そういや先ほどから遠いほうから雷音が聞こえていた。
もうすぐこの地域に雨が降るのだろう。
青空の蒼に山の緑を足したような髪を後ろで大きく結び、ガラガラと障子をあけると強風と同時に葉が入り込む。
「・・・何かとてつもないものが出てきたわね?」
少しニヤッと私は笑う。北の方角・・・かしら?何かとてつもないエネルギーがぶつかっているわね。片方は私たちも知っている人物だけど。
すると遠くのほうから荒い息次と同時にパタパタと足音が響いてきた。
「いきなり雨降るなんて聞いてないぜ!」
風夜だった。横にはたくさんの野菜が入った風呂敷。そういや、今日は町で野菜の特売だったはず。
「お疲れ様。早かったわね。」
ぜーぜーという彼女をよそに野菜を屋敷に持っていく。
屋敷に入るとぽつぽつと水滴が降り出す。そしてあっという間に土砂降りの雨になった。
「うわっ・・・ちょ、洗濯物が!」
・・・ふと横を見ると雨が降りかかっている洗濯物。
しまった。洗濯物の存在を忘れていた。
「あ・・・ごめん風夜。」
「いや、俺のほうこそごめん!すっかり忘れてたから。・・・そういや咲呂は今日北の方角にあるレオという国に行っているんだよな。あいつ頑張ってるかなー?」
「・・・・。」
「ん?どうした水菜。なんか気がかりでもあるのか?」
「・・・ん?ああ・・・。ちょっとね。なんか北のほうで巨大なエネルギーがぶつかっているからなんだろうなー?って。」
「・・・巨大なエネルギー?」
「たぶん片方は咲呂のボーイフレンドだろうけど。」
そう言って私は部屋に入って行く。
私は巫女だから、ある程度の範囲内で気を察知できる能力がある。
だけど、今回は範囲外で察知している。それどころか、日ノ本の外から感じるのだ。
「一体何が起こっているの・・・?」
ふと出た疑問を声に出して私は夕食の準備に取り掛かったのだった。
※※※
「・・・・!?」
「つぅぅ・・・。」
「し・・・ら・・つ・・き?」
一体何が起こったのだろうか。
私は必死にぼやける頭の中で考える。
通称・黒金の皇子である黒い髪の少年に無残にも敗れ、私は力なく横たわる。
そしてリーフ殿を助けようとただただ名前を呼び続けていた時のことだった。
突然、また先ほどと同じように爆風が発生し、それと同時に大きな金属音がなった。
ぼんやりとした視界にはうっすらと血の滲んだ白銀の彼がいる。
「ほう・・・?貴様まだ死んではいなかったのか。」
「へっ・・・。あいにくにも俺はただの白銀の狼族じゃないんでね。」
「何・・・?」
この場において不利なはずの白月は余裕の笑みを浮かべる。
すると、彼の周囲から黄色い光のようなものが見えた。
「ぐ・・・!?」
先ほどまで推していたはずの少年は次第に白月に圧され始めていた。
「・・・っ?」
ふと白月の背後にいたリーフ殿がかすかに動く。
よかった・・・。どうやら彼は無事のようだ。
「き・・・みは。」
「・・・お目が覚めましたかリーフ殿。さあ、お逃げください。」
珍しく敬語の白月の声が聞こえる。リーフ殿はその言葉を理解するのに数秒かかったが、意味がわかったのか強くうなずく。
少し体力を取り戻した私はゆっくりと立ち上がると、リーフ殿に近づく。
ずきりと左腕が鈍い痛みをはなつ。こりゃあ・・・もしかしたら骨折かな?
幸いにも右利きだから防御ぐらいはできるであろう。
リーフ殿の無事を確認すると白月に視線を送る。
それに気付いたのか白月もにこっと見つめ返す。
「無理すんなよ。」
「白月こそ・・・無茶しないでよ。」
「そんなのわかってら。」
いつも通りのその言葉にふと嬉しさを感じつつも、キッと気を引き締めてリーフ殿と一緒に部屋を出ていく。
あいつなら大丈夫だ・・・。そう簡単に負けるものか・・・。
そう信じながら。
※※※
(白月視点)
「うおりゃっ!」
「くっ!」
相手の顔が苦痛にゆがむ。
一時は大きな傷を付けられ、倒れてしまったが次はそうはいかない。
・・・とはいっても、先ほどの傷があまりにも深すぎていつもの力が出ないことは確かだ。
だが、それは相手も同じなようで再生能力が遅くなっている。
一度激しくぶつかると、俺も相手も一歩後ろに下がる。
「まさか・・・黒金の皇子とこんなにも早くに出会うとはね。」
「ふ・・・俺もだ。」
なぜか笑みがこぼれる。今までとは違う何か・・・。
「貴様・・・ついに壊れたか?」
「ああ・・・そうかもな。命の危機にさらされているのに楽しくてしょうがねえや。」
そう呟くと黒金の皇子も笑いだす。
なんだろうなこの気持ち・・・とても楽しくて、嬉しくて。
どこが嬉しいのかは意味わかんねえけど・・・うん。
そう思いつつも体力は限界に近付いたようで、くらりと身体が傾く。
それを見ていた黒金の皇子はクスッと笑いながら、
「今日はお前に勝ちを譲る。こんなに張り合える相手を倒してしまってはつまらないからな。」
「へっ・・・情け無用と言いたいところだが、ありがたく受け取っておくぜ。」
そういうと、彼は黒い闇と一緒に消えた。
荒れた部屋に取り残された俺はゆっくりと膝をつくと床に倒れたのだった。
※※※
後日、なんとかリーフ殿を守り切った私たちは、各国に声援を受けながらオリヴィエ国王から表彰を受けた。
黒金の皇子はあれからクライシスを出て行方知らずとなったらしく、大きな戦力を失ったクライシスはあっけなくオリヴィエに負けてしまったらしい。
近日、リーフ殿はめでたく彼女と結ばれるとのこと。いやーお熱いこった。
そんな高評価をもらった私たちだが、この姿は痛々しいものとなった。
私は予測通りの左腕骨折、切り傷多数。白月は、腹部の傷が深く1日高熱で寝込んだほどひどかった。
表彰は体調が安定した時に行われたので、白月も参加することはできたが医者から1カ月は絶対安静・・・つまりドクターストップを言い渡され、しばらく剣がもてない。
私も左腕は完治までに2カ月は掛かるらしい・・・ああ、不便だ。
「俺の愛しの咲呂ちゃんがあ・・・・。」
「こら風夜。咲呂が困ってるでしょ。頭の上に顔を乗せるのやめなさい。」
「ははは・・・。」
数日前に帰国してきた私たちは今、神社にて宴の真っ最中だ。
ちなみに数人のメンバーと主様である槍次様も参加しており、主様はすでに酔いつぶれていた。
先ほどから会話でもわかるように風夜が頭の上に顔を乗せており、とても食べづらい状況になっている。ただえさえ左手が使えないのにどうすればいいんだよ。
「まあとにかく愛娘が無事でよかったわ。」
「そうだけどさー・・・女の子に傷つけるなんて・・・。」
「咲呂が自ら望んだことだからしょうがないわよ「お母さん。私好きで怪我したんじゃないんだけど。」けど剣士になりたいって望んだのは確かでしょうが。」
お酒を飲みながら母はド正論をはなつ。
その様子を楽しそうに眺めていた白月はふと、母に質問をする。
「水菜さんって・・・たしか25歳ですよね?なのになぜ咲呂と年が7つしか離れていないのに娘と呼んでいるんですか?」
「・・・それはつまり、本当は私は40近くのババアとでも言いたいのかしら?」
「いやそういうわけでなくて・・・。」
「お母さんとりあえずその手を下して。」
白月の言葉に勘違いし手に大きななぎなたを構えながら、鬼を召還した母を私が止める。
「・・・冗談よ。冗談。白月君ったら昔から冗談が通じないわね。」
「「「(いや・・・さっきの完全に勘違いしてたよね?)」」」
どう見ても冗談に思えないようだったが、母は身だしなみを整えてゆっくりと答えた。
「実はねわかりきっていると思うけど、咲呂と私は血の繋がってない親子だわ。それは話したわね?」
「・・・はい。知っています。確か新撰組とかいう所の娘でしたっけ?」
「そう・・・なんだけど・・・ね。」
急に母の声が小さくなったと思っていたその時だった。
母はばったりと横たわりぐーと寝息を立てて眠りだす。
そのいきなりの事に私も白月もただ呆然としていた。
「ええ・・・。お母さんなんで話しているときに寝るのかな。」
「そういやさっきすごい飲んでたからなー・・・」
確かに母の周りには空き瓶が数本転がっている。
その様子にため息をつきつつも風夜が話に入ってくる。
「しょーない。俺が代わりに話すか。この話は咲呂にもしてなかったしな。」
「え・・・本人も知らないんですか。」
「うん。だから・・・ちゃんと聞いておけよ?」
そうつぶやく風夜の表情はなぜか少し暗かった。
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